2012年8月29日水曜日

死の天使を撃て!

 
第2話、ブエノスに遠い国から来た狼達、‏

42)帰りの用意、

私は病院のベッドで寝ている四人を見て、先ほどまで命を賭けた追跡が、
ウソの様に感じ、執念の様にして標的を追い詰めていたマリオも、
今ではこのベッドに肩を負傷して寝ている。

その助手の陳氏も同じ運命で、負傷して側に寝ているのが、何かこの
ドラマの運命的な巡り合わせを感じた。

私とルーカスは何事も無く、ルーカスの犬も今はのんびりと、病院の
庭の木陰で昼寝をしている、何も変わらない平凡な光景で、私達が呼
べばスタスタとどこまでも付いて来る、忠実な犬の情景で有った。

ヨハンスと病院の玄関先で、私達と固く肩を抱き合い、握手して別れ
を告げた。
彼は今夜はどこに居るか聞いて来た。

私は健ちゃんと話して、『多分・・!健ちゃんのエンカルの家に泊ま
って居る』と話して、車をスタートさせた。

健ちゃんがジープのワゴンを運転して、私がフォードの車を運転して
いた。

ルーカスの犬も後部座席に座り、窓から顔を出していた。
別れは埃りっぽい道に直ぐに見えなくなった。
エンカルまでの行程で、ルーカスと帰りのサルタ州までの話をしてい
た。
エンカルに着いて私は直接に店を訪ねて行った。店主は私達を待って
いた。
直ぐに店の裏の自宅部分に案内してくれ、車は裏の車庫に入れた。

ガレージの中で、私はフォードのトランクから、全て先日預ったライ
フルやトランシーバなど全て返した。

私が貰ったブローニングライフルとその弾は私が手元に置いた。
店主は中庭の木陰のテーブルに冷たい飲み物を用意して、イスを進め
てくれた。

健ちゃんは犬を連れて、『チョット!、近所の日本人の店に行ってくる』
と話して、裏から出て行った。

私達三人はまず、飲み物を手に店主と今回のマリオと陳氏の無事を祝っ
た。彼はそれを感謝していた。

店主はグラスを手に私のグラスと乾杯して、その労をねぎらつてくれ、
ルーカスに『約束の物だ・・!』と渡してくれた。
ルーカスは少し、ためらって手を出した。数えもしなくてカバンに入
れ、私の顔を見ていた。私はうなずいて黙って見ていた。

店主は私にも何か渡してくれた。同じ封筒で有ったが、私は直ぐに開
けて見た。かなりのドル紙幣が有った。数えもしなく・・、

『これで、ジープのワゴンが貰えるか・・?』と聞いた。
そして、その封筒を押し返した。

店主は少し驚いた様にしたが、直ぐに『売り物だから・・!でも型は
古いよ~!』と言った。
そして『この金はマリオから、貴方に宛てたお金だから・・!』と言
った。

店主は封筒から幾らかのドルを抜くと、後は返してくれ、事務所から
車検証を持って来ると、サインして渡してくれた。

私はペンを借りると、そこの買主欄に『吉田健一』と書き込んだ。
そして電話を借りると、日本人商店に電話して、多分漫画でも読んで
居る健ちゃんを呼んでもらった。
直ぐに電話口に来たので戻る様に話した。

その後、ブエノスの仲買の事務所に電話して様子を聞いたら・・、

『サルタ州から相棒の運転手が急な用で、トラックを取りに来ている』
と話してくれた。
『先ほど来て、近くのカフェーに多分居るから・・!』と話して、直
ぐに呼びに行った。

相棒の運転手が飛んで来て、『良かった・・!今夜でも持って帰るか
ら・・、』と話してホットしていた。
私は駐車場を教え、管理人の名前も教えて、トラックのカギを貰える
様にした。

電話を切って、直ぐに駐車場の管理人に電話して、マタッコ族の
インジオの運転手が行くから、カギを渡してくれる様に頼んで快諾を
取った。

全てが電話で用が済んでしまった。
電話を置いて私は急にホットして気が抜けてしまった。

これからフォルモッサを抜けてサルタ州まで帰ることにした。
近道でブエノスまで戻る事も無くなり、休暇の最後が何か本当の休
みとなった感じがした。

ルーカスも嬉しそうな顔をしていた。そこに犬を連れた健ちゃんが
戻って来た。
私は車検証を見せると、健ちゃんは飛び上がって驚き、
『お父さんも大喜びするーー!』と話してくれた。

彼は店主から車のカギを貰うと、ジープに行って、マリオの拳銃を
ホルスターに入れて持ってきた。
病院で預って車に隠していたと話して、店主に渡した。

私は全ての用件が済んだと思った。
店主と固く肩を抱き合い、握手して店の裏からジープのワゴンを
健ちゃんが運転して走り始めた。

彼が興奮して運転しているのが分った。

爽やかな風が吹いていた。私の心も爽やかな風が吹いている感じ
がしていた。
ルーカスも笑っていた。



あと2回の連載で最終回となります、最後には『死の天使』の、この顛末
の詳細を書いていますのでご覧下さい。
後で知ったのですが、死の天使に掛けられていた賞金は、現在の貨幣価値
にして日本円に換算して10億円ぐらいの巨額な懸賞金が首に掛けられて
いた様です。

この話が終了した後は、第3話、『伝説の黄金物語』と言う、1915年
代にアマゾンからペルーやボリビア。ブラジル各地の南米を放浪した日本
人の古老から、1964年当時に聞いた、南米奥地を歩いた砂金探しの男
達の死闘と陰謀と、それに絡む憎悪の砂金が絡んだ戦いの物語です。

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