2012年8月23日木曜日

死の天使を撃て!

 第2話、ブエノスに遠い国から来た狼達、‏

 (39標的の逃亡  

私はヨハンスの父親を助けたかった、彼の息子と仲良くなり、事はどう
あれ、一人の命を助けたいと感じた。

確かに私達はここまで標的を追い駆けて、その命を賭けて追い詰めるそ
の執念と情熱にほだされて協力したが、最後の、このプロペラの回転音
が微かに聞えるパラナ河のここまで来て、逃がす為に命を張って標的を
連れ、守り、援助してここで倒れている一人の老いた人間を見て、複雑
な気持ちになった。

彼には彼の信念が有り、それが命を賭けた行動となっていると感じた。

それよりも一人の人間の命を、事はどうであれ助ける事に決めた。

私は肩からライフルを下ろし腰に付けた物入れから、小さなプラスチッ
クの折りたたみの水筒を出すと、小川から水を汲んできて、飲ませて楽
にさせた。
彼は水も口にせずここまで急いで来た感じがした。

微かに手を動かして。私の手を握り感謝の言葉を言ってくれた。

私は彼に『もうじき担架を持って迎えが来るから・・!』と耳もとで
話した。

彼はルーカスの事を『彼は私を助けなかったら、もしかして、私の客人
を狙撃して倒す事が出来たかも知れない・・・、しかし、彼は私を見捨
てなかった。
犬に伝言を書いて、それを貴方に知らせることまでしてくれた。』

彼はそれまで話すと、疲れたのか黙ってしまった。

その時、微かに飛行機のエンジンの馬力を上げる甲高い音がして、私は
一瞬、水上飛行機がエンジンを全開し離陸の為に、パラナ河で滑走を始
めたと感じた。

かなり持続して連続した爆音が響いていたが、急にそれが途切れ、あと
は軽い音に変わった。
微かにジャングルのこずえの先に機影がかすめて飛んで行ったのを確認
した。離陸して空中に飛び上がり行き先を定めて旋回したと感じた。

私はそれを確認すると、ヨハンスの父親の耳もとで・・・、
『貴方の客人はブラジルに向かって飛び立った様だ、これで全てが私も、
 貴方も終った様だ・・!』と話した。

彼は無言で、私の手を握り締めた。

爆音が消えた後はジャングルには静かな静寂が戻って来た。側で鳥が鳴
いていた。鳥の鳴声が耳に爽やかに聞こえて、今までの緊張が吹っ切れ
た。

私もどさっと草むらに寝転がって、彼の横に寝ていた。
物入れから水笛を出して、鳴いている鳥の鳴き声を真似して吹いた。

軽い鳴声で、ジャングルから覗き見える青空を見上げながら、無心に水笛
を鳴らしていた。
どのくらい時間が過ぎたか覚えてはいなかった。

ふと気が付くと、同じ音色で鳴いている声が聞こえたが、それはルーカス
の鳴らす水笛と直ぐに感じた。
ルーカスの犬は尻尾を振って耳を側立てて喜んでいた。

彼は一発も撃つ事無く帰って来た様だ。しかし彼の姿が見えて来た時、
誰か側に居るのが分った。現地人がルーカスに促されて歩いて来た。
彼の手には見なれないルーガの自動拳銃が握られ歩いて来た。

おそらく、現地人が持っていた物を取り上げたと感じた。
ヨハンスの父親が腰に差しているホルスターは空で、おそらく現地人に
持たせたと感じた。

ルーカスは私の側に来ると荷物を下ろして、まずゆっくりと水を飲んだ。
そして現地人にも飲ませると、『やれやれ・・!全ては終った。
えらい休暇だった。』と言うと、現地人を促して小枝を切って担架を作
り出した。

皮ひもとツタを上手に使って、人が乗せて歩ける様な担架を作ると、彼
を引き起こすと担架に乗せ、前を現地人に持たせ、後ろをルーカスが持
って、私にライフルなどの荷物を持たすと、カバンを背中の後ろに廻す
と歩き始めた。

ルーカスの犬がピッタリと現地人の横を歩きながら監視していた。
ヨハンスの父親は青ざめた顔で目を瞑って無言で乗っていた。

道の良い小川の横の道をたどって歩いて行ったが途中で、トランシーバ
ーの呼び出しが有り、健ちゃんが『もう直ぐ着くがどの辺かと聞いた来た。

私は担架を作りそれに乗せて戻って来ていると伝えた。するとヨハンス
の声が響いて、『今日、病院の診療所に行ったら、えらい事になって、
父親も発作で倒れていると聞いて、慌てて健ちゃんと車で来た』と話して
くれた。

事情はともかく今は一人の人間の命を救う事が先決だと話した。
彼は納得して感謝していた。

微かに藪に突っ込んだフォードの車が見えて来た。

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