2012年8月10日金曜日

死の天使を撃て!

第2話、『ブエノスに遠い国から来た狼達』


 (33)吉田氏の農場で・・、

車はエンカルの町を走り抜けて行った。
ペンション滝本の前を通ると、誰か日本人がたたずんでいた。
かなりの夜更けである、静かな街の中にポッンと立っていた。

これからアルゼンチンに出かける人かも知れない、一番の渡しを待って
パラグワイを出ていく人なのかも知れないと感じた。
何かやつれた感じがして哀れであった。

タバコの火が時々、赤く見え、寝られなくて外の道を見ていたのかも
知れないーー!、
タバコを吸いながらポッンと立っている姿が、私の心を絞め付けた。

夜も深けてから吉田氏の家に着いたが、犬達は吼えもしなかった。
ルーカスの犬が車の窓から顔を出して、甘えた唸り声をしただけで、

吉田氏の犬達は車が止ると、尻尾を振って待っていた。
犬達はお互いに『やーやー!』と言う感じで挨拶していた。

その夜、離れの部屋でルーカスと眠りに入った。
彼はその前に明日の準備の点検をして、移住地の奥に入る用意をしていた。

ルーカスは真剣に、標的を狙う事を考えている感じがした。
彼は身体から離した事が無いカバンの中を見せてくれた。

私も初めて見せてもらった。カバンはまるで武器庫の様な印象を受けた。
カバンの一番下には、吹き矢の筒と、矢を入れた竹筒が2本、一本は猛毒
の矢、片方はしびれて麻痺する矢を入れた竹筒、皮袋の水筒が2個、
カバンの外の下には魚をおろす、先の尖った鋭いナイフが仕込んで有った。

魚を釣る針と糸一式、鳥の鳴声を出す錫製の水笛、それからゴムで小石を
飛ばすパチンコが一つ、虫除けの薬が入った瓶、救急薬品、毒蛇の緊急血清
など彼が狩猟で使うものがギッシリと無駄なく入っていた。

勿論私が渡している、38口径の拳銃も鹿皮で巻いて入れて有り、弾は皮の
ケースに入っていた。
ルーカスは全部見せてくれるとニタリ~!と笑うと『驚いたかーー!』と言
う感じで、おどけていた。
プラスチックの袋には乾し肉が入れて有り、時々彼が口を動かして空腹の
時食べていたのが分った。

その夜は帰る前にマリオ達と飲んだ事も有り、ぐっすりと朝まで寝ていた。
朝は吉田氏が起きると直ぐに我々も起きた。健ちゃんも起きて来て、今日は
移住地の方に行くからと言っていたが、私が乗って帰った車を見て、理由も
聞かずに喜んでいた。

朝食後、乗って良いか聞いて来たので、健ちゃんに運転させて少し農場の廻
りを走って廻った。
健ちゃんは中々に運転感覚が良いのか、上手に運転して見せてくれた。
吉田氏は午後から行くと話して、エンカルの町に出かけて行った。

我々三人は車で移住地の農場に出かけて行った。奥さんがおにぎりを作って
くれ、途中の道でヨハンスの実家に寄って、見舞いをしてからと考えていた。

彼の父親の農場に着いたら、意外な事が起きていた。

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