死の天使を撃て!
第2話、『ブエノスに遠い国から来た狼達』
(33)吉田氏の農場で・・、
車はエンカルの町を走り抜けて行った。
ペンション滝本の前を通ると、誰か日本人がたたずんでいた。
かなりの夜更けである、静かな街の中にポッンと立っていた。
これからアルゼンチンに出かける人かも知れない、一番の渡しを待って
パラグワイを出ていく人なのかも知れないと感じた。
何かやつれた感じがして哀れであった。
タバコの火が時々、赤く見え、寝られなくて外の道を見ていたのかも
知れないーー!、
タバコを吸いながらポッンと立っている姿が、私の心を絞め付けた。
夜も深けてから吉田氏の家に着いたが、犬達は吼えもしなかった。
ルーカスの犬が車の窓から顔を出して、甘えた唸り声をしただけで、
吉田氏の犬達は車が止ると、尻尾を振って待っていた。
犬達はお互いに『やーやー!』と言う感じで挨拶していた。
その夜、離れの部屋でルーカスと眠りに入った。
彼はその前に明日の準備の点検をして、移住地の奥に入る用意をしていた。
ルーカスは真剣に、標的を狙う事を考えている感じがした。
彼は身体から離した事が無いカバンの中を見せてくれた。
私も初めて見せてもらった。カバンはまるで武器庫の様な印象を受けた。
カバンの一番下には、吹き矢の筒と、矢を入れた竹筒が2本、一本は猛毒
の矢、片方はしびれて麻痺する矢を入れた竹筒、皮袋の水筒が2個、
カバンの外の下には魚をおろす、先の尖った鋭いナイフが仕込んで有った。
魚を釣る針と糸一式、鳥の鳴声を出す錫製の水笛、それからゴムで小石を
飛ばすパチンコが一つ、虫除けの薬が入った瓶、救急薬品、毒蛇の緊急血清
など彼が狩猟で使うものがギッシリと無駄なく入っていた。
勿論私が渡している、38口径の拳銃も鹿皮で巻いて入れて有り、弾は皮の
ケースに入っていた。
ルーカスは全部見せてくれるとニタリ~!と笑うと『驚いたかーー!』と言
う感じで、おどけていた。
プラスチックの袋には乾し肉が入れて有り、時々彼が口を動かして空腹の
時食べていたのが分った。
その夜は帰る前にマリオ達と飲んだ事も有り、ぐっすりと朝まで寝ていた。
朝は吉田氏が起きると直ぐに我々も起きた。健ちゃんも起きて来て、今日は
移住地の方に行くからと言っていたが、私が乗って帰った車を見て、理由も
聞かずに喜んでいた。
朝食後、乗って良いか聞いて来たので、健ちゃんに運転させて少し農場の廻
りを走って廻った。
健ちゃんは中々に運転感覚が良いのか、上手に運転して見せてくれた。
吉田氏は午後から行くと話して、エンカルの町に出かけて行った。
我々三人は車で移住地の農場に出かけて行った。奥さんがおにぎりを作って
くれ、途中の道でヨハンスの実家に寄って、見舞いをしてからと考えていた。
彼の父親の農場に着いたら、意外な事が起きていた。
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