2012年7月27日金曜日

死の天使を撃て!

第2話、『ブエノスに遠い国から来た狼達』


(27)現地人の襲撃、

翌日の朝早く、私は健ちゃんとジープでヨハンスの農場に出かけた。
今日は私達が来る事になっていたので、犬は小屋に入れて有った。
いつものヨハンスの愛犬が出迎えてくれ、尻尾を振ってくれた。

今日は簡単なベアリングの取り付けだけで、短い時間で済んでしまった。
交換修理が終ってから、もう一度テストしたが一度で成功して、今度は
軽い音でモーターが廻っていた。
水がほとぼしる様に末端の家畜小屋の水場でも出ていた。

今日はヨハンスの離れに居る客人は出てこなかった。静かな静寂が眠く
なるような感じで時間が流れていた。

木陰で仕事が済んでから、お茶を出してくれた。
感謝の言葉で『これでしばらくは何も心配は無いと思うーー!』と言っ
てくれた。健ちゃんは犬と遊んでいた。

私はお茶を飲み干すと、『お昼は私がビーフカレーを作るので、ぜひ食
べに来てくれ-ー』と話しておいた。
彼は吉田氏の農場まで、我々を送ってくれ、『一仕事したらお昼をご
馳走になりに行くーー、』と話して帰った行った。

私は健ちゃんが見守って居る中で、奥さんのヘルプで大釜で沢山のビ
ーフカレーを作り始めた。
奥さんが手際よく、ジャガイモや玉ねぎを切ってくれビーフを入れて煮
込み始めた。時間を掛けて煮込んでから、ブエノスからのお土産の日本
製カレーの素を沢山刻んで入れた。

ビーフカツを揚げて、カツカレーの用意も出来た。美味しいカレーの香
りが漂い、皆がお腹を空かして集まってきた。

『おいしそ~!早く食べたいーー!』と下の妹が早々とお皿を出して
テーブルを作って、サラダに使う熟れたトマトを井戸水で冷やした物を
カゴで持ってきた。

奥さんは沢山大釜で炊いた御飯をテーブルの脇に据えると、御飯を皿に
盛り、カレーをかけて手渡しでテーブルに並べて行った。

匂いに誘われる様にヨハンスがオートバイでお昼御飯に来たので、丁度
良かった。
カツを切って皿の横におき、その上にもカレーをたっぷりと掛け特大の
カツカレーが出来あがり、皆が唸って見ていた。

奥さんが自家製のラッキョーを瓶から出して来て、お鉢に山盛り置いて
くれた。後は何も文句が無い感じで、皆が歓声を上げて食べ始めた。
ヨハンスも前に食べた事が有るので、よく知っていたから、美味しそう
に食べていた。
トマトと玉ねぎのスライスしたサラダは塩とオリーブオイルだけの簡単
なものだけど、良くカレーに合っていた。

皆はお代りして、山盛りについだカレーを食べていたが、どの顔も幸せ
そうな感じで、パクついていた。
食べ終わると、熱いコーヒーを入れて、ミルクをたっぷりと入れると、
皆が『沢山食べすぎたーー!』と言いながら飲んでいた。

食事の後かたずけを済ませると、奥さんと二人の子供はミクロバスで
エンカルの町に帰って行った。
ヨハンスには残ったカレーを御飯の上にカツをのせて、カレーをたっ
ぷり掛けて持たせた。
彼は器用に片手運転でオートバイを運転して、片手にカレーを入れた
カゴを持つと走り去って行った。
彼は『客人にも食べさしてやりたいーー!』と話していた。
その後、少し昼寝を楽しんでいたが、我々も日が暮れない内にエンカル
に戻る為に準備をしてかたずけていた。

馬車にトマトの箱も積み込み健ちゃんがたずなを持って、吉田のおやじ
さんが前に乗り、私とルーカスが後ろの座席に座っていた。
ルーカスの犬はトコトコと後ろから付いて来た。
管理人の現地人が見送ってくれ仲良くなった犬が寂びそうにして眺めて
いた。

しばらく土道を揺られてジャングルの林から道の両側にうっそうと茂っ
ているあたりに来た時、前方で異変が感じられた。
まず『パーン!』と銃声がして、微かに車が急ブレーキを掛ける音が聞
こえて来た。
私達は少し急いで馬を走らせた。

緩いカーブを曲がったとたん、そこにはヨハンスのジープが前方に見え、
横倒しになり、直ぐ先の茂みに人影がチラリと見えた。
とつさに馬車を止め、様子をうかがった。

ルーカスの犬が耳をピーンと立て、鼻でヒクヒクと匂いを探っていた。

ルーカスは釣り竿入れのケースから、ブロウニング・ライフルを取出すと、
すばやく肩掛けカバンから拳銃を取り出して、握り手に巻き付けて有った
皮ひもを伸ばすと、首に掛け、拳銃をズボンのベルトに挟んだ。

予備の弾をポケットに入れると、馬車から飛び降り、まず犬の口を軽く
握り、『吼えるな~!』と言うサインを出した。

犬は鼻を2個所の方向に交互に向けると、『どうやら、あそことーー、
あそこが怪しい奴が隠れている』と合図していた。
ルーカスはここから動かない様にと小声で言うと、林の中に犬と走り込
んで行った。

私ら三人は馬車から降りて、側の茂みに隠れていた。
ジープの方で微かに誰かを呼ぶ声がしていた。

声は確かにヨハンスの声で、苦しそうな声をしていた。私は腰のホルス
ターから拳銃を取り出して、『見てくるーー!』と言うと藪を伝って身
を潜めてジープに近ずいて行った。

すると『パーン』と銃声がジャングルに響いた。
それと激しく犬が突進する音が響いていた。

時々、『ぐわ~!』と獲物に飛びつく襲撃の声も響いて、人の悲鳴も聞
えていた。するとかなり先で人影が動いた。

ライフルを手にしているのが微かに見えた。私は手にしている拳銃で狙
いを付け、威嚇射撃で3発ほど相手をスレスレに撃った。

相手は驚いてパット伏せた。私は走りながらもう一度連射してジープに
近ずいた。
相手が伏せた場所がハッキリと分るので、私も目を離さず、そこを見な
がら走った。

ジープまで走り込み、そこでもう一度、全弾を連射して残りの弾を打ち
込んだ。すばやく空薬莢を抜き、弾を入れた。

ヨハンスが横たわり、ジープから投げ出された様であった。
私は相手が伏せた場所から目を放さなかった。

ヨハンスは『ジープの荷台の私の犬を見てくれ-ー』と話したので見ると、
頭を打ち抜かれて死んでいた。

おそらく即死の感じがした。
私は一瞬『ドキ-ン!』とした。昨日の夕方を思い出した。
ヨハンスは間違われて、現地人の労務者達に仕返しに襲われたと感じた。

ルーカスの犬の声は静かになった。
私はジープを盾にして拳銃で相手が伏せた場所を狙っていた。

相手は藪から片手にライフルを持って、立ち上がって逃げ様としたので、
足を狙ってゆっくりと、『パンー、パンー、』と流し撃ちで撃って行った。

3発目に相手がもんどりうって足を抱えて倒れていった。
命中したと感じて、撃つのを止めた。
そこに後ろ手に縛られた男がルーカスに拳銃で脅されて歩いて来た。

ふと気が付くと、後ろでヨハンスが愛犬を抱いて泣いていた。

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