2012年7月19日木曜日

死の天使を撃て!

第2話、『ブエノスに遠い国から来た狼達』


(23)標的との遭遇、

その夜は遅くまで皆の寛いだ時間で、美味しい食べ物が並び、私が持参
したお土産にとても喜んでくれた。
楽しい宴会も終りになって酔いが廻った足で、ほとんどの人が円を描い
て炭坑節の踊りの輪に入っていた。

移住船の中での赤道祭の出し物に有ったから、ほとんどの人が知ってい
た。カセットの音頭で楽しく輪になって踊った。
ヨハンスが珍しそうに眺めていたので、その由来を教えてやった。

最後に私は皆の健康と、これからの将来を祝してから、
「乾杯~!」と叫び。「バンザイ~!」と皆と唱和していた。

固く手を握り、肩を抱き合て再会を約し、別れて帰って行った。
ヨハンスとも明日のポンプ修理の約束をしてから別れたが、その前に
材料の薄いなめし皮を頼んでいた。彼はそれを承知して帰って行った。

吉田氏家族とあとかたずけをして、その夜は日本式の風呂に入り、蚊帳
の中でぐっすりと寝ていた。

ルーカスも楽しかったのか寝る前まで、覚えたばかりの日本の曲を鼻歌
で唄っていた。朝までぐっすりと寝ていたので、目を覚ました時はかな
り日が上がり明るかった。
吉田のおやじさんはすでにトマト畑の手入れと水掛けをしていた。
健ちゃんはホンダカブのオートバイを手入れしていた。

エンジンの調子が悪く、先日買った中古エンジンから部品を抜いて取り
替えていた。
オートバイでここに来たら、調子が悪くなり、この移住地の農場に置い
て有ったので、やっと治していると説明してくれた。

ルーカスが居ないので聞いたら、「今朝暗い内に犬を連れて鹿撃ちに
出かけてしまった」と話してくれた。
昨日の宴会の席で、近所の日本人から頼まれて居たようだと話してく
れたが、だいぶ被害が出ていて、つがいの鹿が2匹で植えたばかりの
トウモロコシを食い荒らして困っていた様だ。

朝食を済ませる頃にルーカスが戻って来た。肩には鹿が担がれていた。
内蔵は出して処理してあったが、「もう1匹は日本人の農家に置いて
きた」と話してくれた。2頭とも射止めた様だ、凄腕に驚いていた。

プロの狩猟者の腕を見た感じで、皆も驚いていたが、早速に木の枝に
釣るして、肉におろして今夜の鹿ステーキの肉を作ってしまったので
ヨハンスにもお土産とした。

オートバイ修理が一段落して、皆で、「バタタ・デ・ズルセ」と言う、
芋ヨウカンに似た物を出して切り分け、コーヒーを入れてチーズを挟
んで、お茶の時間とした。

ヨハンスのお土産のステーキ肉は昨夜彼が置いていったアイスボック
スに入れて、芋ヨウカンもチーズの塊と一緒にお土産に入れた。
健ちゃんの操る馬車で、ヨハンスの農場に出かけて行った。

私は忘れずにカメラをポケットに隠したが、どこに入れたか分らない
様な感じであったので、ひとまず安心した。
しばらく走ってから、わき道をかなりジャングルに入って行った。
入口は幅広いゲートを作って有り、奥まで小道が続いていた。

しばらく小道を入った所で、母家と倉庫の廻りに綺麗な新しい鉄条網
で囲ったフエンスが有り、かなりゆったりとして、その中には犬が4匹
ばかりこちらを見ていた。

犬が激しく吼えてヨハンスが家から出てきて「危ないから犬を小屋に
繋ぐから待ってくれーー!」と言って、姿を消した。

直ぐに小走りで鉄条網の仕切りの門を開けて、私達を迎え入れてくれた。
昨日に宴会に連れて来ていた犬だけが、おとなしく後を付いて来ていた。
私にも近寄るとを鼻を私の手に押しつけると、
「ヤー、ヤ-ー!」と言う感じで私の顔を見上げていたので、安心した。

ルーカスと犬は吉田氏の農場に置いて来た。健ちゃんと二人で来ていた
が、その方が良かったと思った、あの犬を見ただけでそう感じていた。

ヨハンスの案内で早速に倉庫の横のポンプ小屋に行った。
彼は昨日私が頼んでいた薄いなめし皮を用意していた。

工具を並べて、ポンプの水上げの部分をモーターから取り外して古い
パッキングをこさぎ落して、なめし皮をピッタリとあてがい軽く、
ハンマーで印を付ける為に叩いていた。
健ちゃんも熱心に覗いて、時々、私の助手として工具を手渡してくれ
た。

その時、近くで誰かが見ている感じがした。ガッチリとした体格の
中年の男で有った。
逆光で顔は全部は見えなかった。
しかし、私は「どきり~!」と心臓がときめいていた。

それはマリオ達が長年捜している標的の人物と直感した。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム