2012年7月21日土曜日

死の天使を撃て!

第2話、『ブエノスに遠い国から来た狼達』


(24)標的を撮影する、

私は少し緊張して、チャンスを狙っていた。
健ちゃんがなめし皮をハンマーで軽く叩いてくれ、型が皮に綺麗に印が
付いて出来あがり、私はポケットのカメラを手に隠してシャッタ-チャ
ンスを捜していた。

ふと人影が消えてしまい、近くでヨハンスと話し声が聞えていた。
直ぐ側にいる事が分ったので私は一策を考えてヨハンスを呼んだ。

印が付いたので切り出すから切れるハサミを頼んだ、そしてボルトを通す
穴を作るために、拳銃の38口径の空の薬莢を持っているか聞いた。
彼はあいにく空の薬莢はないと言ったので、でも拳銃は持っているか聞い
た。

彼は直ぐに部屋から拳銃をもって来て、『では今から空薬莢を作るかーー!』
と言うと空に向けて拳銃を発射しようとしたので、私は大げさな身振りで、
『耳がキンキンするから少し離れた所で撃ってくれー』と言った。

彼は直ぐに納得して発射した。『パーン!』と大きな音がした。
私は必ず人影がもう一度この現場を見ると踏んでいたので、手の中にカメラ
を隠して待ち構えていた。
やはり離れの木陰からこちらを見ていた。

待ち構えていたので冷静に間違いなく写した。
逆光でもなく間違いなく写したと直感した。
そして部屋に入りかけた横顔も一枚写した。

ヨハンスは拳銃から空薬莢を出すと私に渡してくれ、健ちゃんが押えている
なめし皮のボルト穴の痕に薬莢をあてがい、ハンマーで『パーン』と叩いた。
綺麗に打ち出して穴が開き、それを8回も続けて出来上がった。

薄くグリスを塗り、パッキングをこさぎ落した所にピッタリと取り付けて、
ポンプの胴の部分とモーターとをパッキングを挟んでボルトで取りつけた。
一度で成功して、ピッタリと挟まったなめし皮は1ミリの誤差も無かった。

ヨハンスも感心して私の作業を見ていた。
ボルトの通す穴を、空薬莢で開けることには感心していた。
テストする為に呼び水を入れて、空廻りを防いで、エア抜きをしてポンプを
作動させた。
一度で『キュー-ン!』とモターが動き、水が近くの水道の蛇口からほとぼり
出て来た。
圧力計は70パウンドの圧力が掛って、ヨハンスが手を叩いて喜んでいた。
『前の2倍の圧力が出ているーー!』と言った。
ヨハンスが水場で夢中になって仕事をしている間に私は周りを何枚も写した。

健ちゃんと犬は仲良くじゃれて遊んでいたので、誰にも見られる事無く、
家の廻りも写してしまった。

ヨハンスは家畜小屋の水場も、水が出ているか点検してしまうと、
お昼だー!ランチだー!と叫んで私と健ちゃんを呼んでくれた。

彼は感謝の気持ちを込めて握手してくれ、男世帯で何も無いが貴方が持って
きた鹿の肉で、美味しいステーキにするからと言って、部屋に案内してくれた。

彼はワインを直ぐに開けてくれ、グラスに注ぐと皿などを並べてテーブルを
作り、冷蔵庫からチーズや生ハムなどの皿も出して来た。

彼は大きなフライパンにサラダオイルでガーリックを炒めると、鹿の肉を入
れてフタをしてゆっくりと弱い火で焼いていた。トマトの熟れた物にオリー
ブ油と玉ねぎの輪切りをのせたサラダが出てきた。

彼は皿に肉やサラダなどを入れるとパンとワインを盆に載せて、
『ちょっと~!これをお客に届けてくるからーー!』と言って出ていった。

直ぐに戻って来ると、『さあ~!食べようーー』と
私達に声を掛け、グラスを合わせて乾杯して、食事が始まった。

食事しながら、ヨハンスは『佐藤氏の後を父が買ってくれ、私の独立した農場
としてくれた』と教えてくれた。『離れに居るのは父の友人でしばらく滞在し
ているが、もう少ししたらブラジルに行く予定で居る様だ・・』と教えてくれ
た。

彼は婚約者も居て、もうじき結婚もすると話していた。
写真を見せてくれたが、綺麗な女性が笑っていた。
私は全てが完全に成功したと感じた。

裏の畑に通いで働きに来ている現地人が、水のタンクが溢れていると教えに来
てくれた。彼は『あの使用人は父の代から長く働いているーー』と言って、
水を止めに走って出ていった。

食事の後はコーヒーを出してくれ、オレンジをお土産に帰途に付いた。
私はポケットの中のカメラを何度も押えていた。

吉田氏の農場に着いて、私はカメラをマリオに直ぐに届けたい衝動にかられた-!

そのチャンスは直ぐに有った。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム