2012年7月3日火曜日

死の天使を撃て!

第2話、『ブエノスに遠い国から来た狼達』


(13)消音拳銃ワルサーPPk

私は覚悟を決め、まな板の鯉となった。
ガタガタして見苦しい態度を見せるより、ふてぶてしい態度でマリオに
当たった。

私はトーストをバリバリと食べて、
「こなんまずいパンは食べた事がないーー!ましなクロワッサンなど
近所で買って来たら!」と、なじった。

マリオはどぎまぎしていた様だ、
「パンが古過ぎて固くて、味も素っ気もないーー!」と、もう一度言う
と、「陳ーー!近所のパン屋で買ってこい~!」と怒鳴った。

陳氏が上着を取り、財布を確かめてドアから出ていった。チャンスが来
た。先ほど殺気を感じた時、マリオが流し目を近くの机の引出しに注い
だ所を見逃さなかった。

確か何かあそこの中に凶器を隠しているに違いない、拳銃かナイフか手
近な隠し場所だ。
私はコーヒーにミルクをたっぷりと入れてカップを手にマリオの前に座
りなおした。
私が今度は少し質問するから答えてくれとマリオに言った。
無言でうなずいて了承してくれた。

標的は今も同じ場所に住んでいるのかーー!

銃は何を使用するのかーー!

一発で仕損じたならーー、二度のチャンスは有るのかーー!

現場からの逃走は誰が手助けして呉れるかーー!

3万ドルもの現金を一度に貰っても携帯出来ないから、海外逃走の為の
手引きや、飛行機の切符の手配はどうするかー!

最後の土壇場で標的が気が付いて逃亡してしまったら、少しは金を払
うのかーー!

200m以上離れた模型の家の射撃練習場は有るのかーー!

私はこれだけの事をマリオに突き付けた。彼はメモ用紙に書いていた。
書き終わると『フ-ッ~!』と溜め息を付き、コーヒーを飲み干した。

『何も答えられないのなら今日は帰るーーー!』と席を立った。
マリオは慌てて引き止めた。

陳氏が居ないのでこれ幸いーー!、押し退けてもドアから出ようとした。
マリオの顔色が変わり、私の襟を掴んで掛った。

ひょいと彼の手をかわして、合気道の要領で、利き腕の手の平を親指で
押して腕を捻って曲げた。

『ひ~!』と言う悲鳴がして両膝を床に付いてもがいていた。
私は左手を伸ばして机の引出しを開け中を見た。一瞬どきりとした。

そこには消音器を付けたワルサーPPkが有った。
拳銃のガンブルーはすれて片側はひかり、かなり使いなれた感じが見た
だけで分かった。
私はその拳銃を片手にして弾が装填されているか確かめた。

弾は装填され、安全装置を掛けて有った。私はマリオを突き放して床に
転がした。
そしてゆっくりと彼の顔に狙いを付けて言った。
『静かにしろ~!陳氏が帰って来るまでここで待てーー!』と命令した。

マリオは消音器を付けた拳銃の恐ろしさを知って居る様で,この日本人
の若者なら簡単に撃ちかねないと、感じている様だ。

確かその時点では私に凄い殺気が出ていた様だ。
マリオの顔面が蒼白になり、身体を固くしているのが私にも感じた。

私は電話の受話器を取り、ルーカス兄の仕事場の靴屋に電話した。
直ぐに出て来た。
ルーカスも側に居ると電話で教えてくれ、今日はこの店に遊びに来て
いると話してくれた。

ルーカスを呼び手短く出来事を話して助けを求めた。
彼はブエノスの地理には詳しくはなかったので、兄に頼んでラジオ・
タクシーを呼んで来る様にして貰った。

道と通りの番号を二度繰り返して教えた。ルーカスに最後に念を押し
て、『トラックから俺の恋人ちゃんも忘れずに持って来てくれー!』
と言った。

ルーカスが笑っていた。陳氏がそろそろ戻って来る頃と思った。 


(14)標的の抹殺交渉、

電話を置いて、窓の外を見るとそこに陳氏が紙袋を持って歩いて来る
のが見えた。
ドアのベルが鳴って私が開けてやらないので自分でカギを開けて入っ
て来た。

私が拳銃を持っているので、一瞬、『ギクリーー!』と身体をこわば
らせていたが、私がイスを進めると安心した様に座り、紙袋からでき
立てのクロワッサンを皿に出した。
マリオもイスに座り私の様子を伺っていた。
私は陳氏に『しばらくはこのマリオの拳銃は預っておくと話した。』
陳氏のポケット小型拳銃は弾を全部抜いて返した。

私はコーヒーをもう一度入れ直して、クロワッサンとコーヒーにミルク
をたっぷりと入れると、ゆっくりと食べ始めた。

私は陳氏に先ほどマリオが書いた私の質問を見せた。
彼も溜め息をついて何も答えなかった。
私は念を押して言った。『私は自分の命を守る時は抵抗して、反撃し
てどんなことをしても、たとえ人殺しをしても生き残る手段を探す』と
話した。

マリオがどんな事情で一人の人間の命を抹殺しようとするのか私には
計り知れない事だが、それなりの信念で行動していると感じたが、私は
いがみ合い、猜疑心を前提での交渉は出来ないと話した。

マリオもうなずいて聞いていた。せっかくの休暇をこんな事に使いた
くは無かった。しかし何か同情心が少し湧いてきた。マリオと陳氏に
私は提案した。

『貴方達が希望して抹殺しょうとしても、肝心の標的が住んでいるか、
 可能性も調べて見なくては何も話しの土俵にも乗れない』と言った。

マリオがうなずいて聞いていた。休みの間にパラグワイの現場を見て、
それから肝心の話しをして具体化する前、標的が実在するのか確証を
掴む事で話しは落ちついて決まった。

その時、ドアのベルが鳴って誰か来た様だった。
私はル-カスが来たと感じ、やはり彼が来た様だ。
私がドアを開けて中に招き入れた。ルーカスはしばらくは落ちつかな
い態度をしていたが、いつもの皮の肩掛けのカバンを持って来ていた。

私は彼をマリオと陳氏に紹介した。私は彼が現在もサルタのジャングル
で狩猟をしていて、軍隊時代は狙撃手で部隊一の射撃の名手であった事
を教えた。
マリオの顔色が変わった。私は一度、みんなでパラグワイに出かけて現
場を見て決め様と誘った。

了承され、明日の朝にセスナの軽飛行機で行く事に話しがまとまった。
私は話しが壊れても、3000ドルの報酬は欲しいと申し入れた。
それは受け入れられ、モレ-ノの飛行場から明日の朝8時に飛ぶ事が決
まり、私は知り合いの移住船の同船者達を尋ねて行く事を考えていた。

お土産を買いに出かけて行こうと思っていた。
マリオに弾を抜いた拳銃を返し、私はルーカスが持って来た自分の拳銃
をベルトに差して言った。
イザと言う時はこれを使うと明言した。緊張の中にも話しが決まった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム