2012年6月25日月曜日

死の天使を撃てー!

第2話、『ブエノスに遠い国から来た狼達』

(3)酒の席で・・、

私は陳ですーー!と名乗ると、「初めましてーー」と流暢な日本語で挨拶
してきた。

私の友達の知り合いの様で、この店の常連とのことであった。
私はウイスキーを進めて、グラスに氷を入れて酒を注いだ。

もう一度乾杯して、「グーッ!」と飲み乾して、酒席の話しの潤滑材とし
た。
日本式におつまみの皿が出て来て、席も一度になごみ日本語で気軽に話し
が出来る事も久しぶりで有った。

席に座っている日系の女性も、上手な日本語で話しに加わり、冗談と
馬鹿話でワイワイと酒も入って、楽しさがテーブルに溢れていた。
久しぶりの酒の席で私もジャングルの単調な生活の息抜きとしては最高
であった。

まだその頃は農場の支配人でマリアとも知り合ってはいなかった時代で、
気楽な一人者の時代であった。収穫高からの歩合で、かなりの金を稼い
でいた時代で財布の重たい物を持っていた。
まだクレジット.カードも無い時代、現金が全てであった。

陳氏は自分から自己紹介してくれ、九州の大分県出身と言っていたが、
家族がドミニカ移民で移住して、それに付いて移民して行ったと話して
いたが、日本では日本名を名乗っていたと言った。

広東語もかなり話せると言っていた。スペイン語はベラベラの口でかな
り語学が達者な感じで、現在はユダヤ人のオーナーの繊維関係の貿易会
社で仕事をしていると言っていた。
仕入れ先が日本が主な所が多くて日本語と中国語が解る陳氏が適任の
仕事場と私も感じた。
あちこちと流れ歩いて、南米はかなり詳しい感じで柔道と空手が少し
出来るので、ブラジルでは売春宿の用心棒もしたと笑っていた。

客のギャングに半殺しにされかかって逃げて来たと言っていたが、
何かふてぶてしい、ヤクザの蔭を持った男で有った。
しばらくして酒もかなり廻り、その場の雰囲気から沖縄県人二世の女性、
エミさんのどうやら「いい人ーー」らしい感じで、話しぶりから分かっ
た。

その時ドアが開いて、ジプシーの若い少女が花束を売りに来た。テーブ
ルを廻り花束を売っていたが、陳氏が冷たい眼差しでにらむと、少女は
私らのテーブルには近かずくことはなかった。

ドスのある目で裏の社会を歩いて来た事を物語っていた。彼がトイレに
立った時、座席に脱いであった背広のポケットから、小型の自動拳銃が
チラリと見えた。

無造作に注込んである拳銃が余りにも慣れた感じで、不気味な感じが伝
わってきた。
今日はそんな事より、楽しく話して、飲んで、騒いでいたかった。隣り
のテーブルに座っていた登美ちゃんと呼ばれた女性も加わり、大きな声
で日本語で話して、馬鹿を言って笑いこけていた。

真夜中の零時を過ぎて何か食べに行こうと話しが決まり、店で日本人と
の混血の若い女性も誘って6人でタクシーに乗り、女の子は膝に乗せて
ワイワイ言って乗っていた。
運転手が顔をしかめて見ていたが、その顔にひらひらとお札をぶら下げ
て見せると、ニコニコして黙ってしまった。
カンテイーナのレストランに入り、小皿の各種のつまみと、各自の注文
をすると、ホールで音楽に合わせて踊り出した。
注文の皿が並び、一曲が終ると、皆はテーブルに戻り座った。その時、
陳氏にスーッと近寄り、何か耳打ちする若い男がいた。陳氏は黙って聞
いていたが、

「あとでーー!」と言うとその白人の若い男は踊りの中に消えて行った。

(4)イタリア人との喧嘩、

賑やかな時間が過ぎて行き、踊り疲れてテーブルに座り、ワインをソー
ダーを割って、つまみを口にしながら乾いた喉を潤していた。

陳氏が明日の午後に知り合いの農場でアサードの焼肉を開くので、一緒
に行こうと誘ってくれた。予定は何も無いので喜んで受けた。
待ち合わせはアバスト市場の直ぐ近くの場所に有る、カフェーであった。
そこは私も知っているイタリア系の美味しいコーヒーとパスタが食べら
れる所で、かなり有名な場所であった。

すこし遅くまで寝ていて、直ぐに行ける所であったので喜んでいた。
ルーカス達の泊まって居るアパートには、今日は泊まる予定は無かった。
直ぐそばに借りた駐車場にトラックも止めて有るので、他に泊まる所が
なければ、トラックの後ろのベッドで寝る事が出来るので何も心配は無
かった。

そして私の全ての荷物もそこに置いてあるので、早く言えば私のアパー
トと同じであったが、駐車場は管理人が住んで居て、番犬もいて、24
時間管理しているので、安心してトラックを置いていた。

トラックのタイヤ一本盗まれても、かなりの値段がするのでそこは安全
な場所であった。気分的に解放されて、楽しい寛ぎと、久々に飲んだ
ウイスキーに酔って、登美ちゃんと話しが合い、彼女だけが日本から来
た経歴で、東京の話しも出来る彼女に嬉しかった。

酔いと踊りの疲れで少し眠くなって来た時に四名ばかりのイタリア語を
話している若い男達が酔った勢いで三人の日系の彼女達を踊りに引き込
もうとして、テーブルに割って入って来た。

少し『カチーンーー!』と来ていたが、陳氏はいきなり腕をねじ上げて、
床に叩き付けてしまった。面目を潰された若い男はいきなり殴りかかっ
て来た。

他の三名の男達も加勢をするかの様に、ぐるりと囲んで見ていたが、
陳氏は動ぜず、パンチをかわすと簡単に殴り倒してしまった。

店の人間が飛んで来て『騒ぎは外でやってくれーー!』と喚いた。

我々は勘定を払うと外に出た。三人の彼女達を囲むようにして、イタリ
ア人のごろつきを用心していた。先ほど殴り倒された男がポケットから
ナイフを出した。

口が切れて血を垂らしているので少し『ギョー!』とした感じが伝わ
って来た。
陳氏もためらう事も無く、ポケットから手の平にスッポリと入る小型
のブローニングの自動拳銃を出すと、その男の顔に狙いを付けていた。

朝の3時近い時間で歩道には余り人影も無かったので、これからどう
なるか一瞬『どきりーー』とした。
その時スーッと車が近ずき若い白人の男が『早く乗りな~!』と言っ
て誘った。

陳氏は私達が全員乗りこむまで、拳銃を構えて動かなかった。
陳氏が乗り込むと、タイヤが激しく音を立てて発進した。
後ろで罵声がして、酒ビンが車道で砕ける音を聞いた。

陳氏は『ゲラゲラーー』と笑っていた。それから彼は『今夜はこれで
お開きにしようーー!』と言うと、運転する若い白人に指図して、先
ず私の友人と混血の日系人を彼女のアパートの近くに降ろした。

次ぎは私が頼んだアバスト市場の近くに来た時、登美ちゃんが『そこ
なら私のアパートに寄ってーー!』と声を掛けてくれた。
私は一瞬ためらったが、直ぐに彼女が私の腕を取り、外に引っ張って
降ろしてしまった。

陳氏とエミはそれを見ると嬉しそうに、『じゃーー楽しく!』と声
を掛けて走り去って行った。
私の腕を掴んだ彼女はぐいぐいと引っ張って歩き出した。
直ぐに小さな小奇麗なアパートの前に来て、『遠慮しなくていいの
よーー!』と言うなり、ドアを開けて誘ってくれた。

直ぐに冷たいボトルの水を出してくれ、私は酔い覚ましに、グイー
ーと飲んだ。ソファーにどっかりと座ると眠気が一度に吹きだして
きた。

彼女が私に何か言っていたが、半分も聞いてはいなかった。
彼女は着ていた物をポンポンと脱ぎ捨てて、一番下のパンテイーを
私の顔に投げて、シャワーに入った。
そこまでは覚えていたが、後はシャワーの心地よい音が子守り唄で、
後は何も知らずに寝入っていた。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム