私の還暦過去帳(161)
このお話はだいぶ前です、かれこれ30年ほどになると思います。
私がアメリカでコンデミニアムと言う集合住宅の管理をしていた
頃です、そこではかなりの大きなプールも有りまして、最低週
四回は行って見廻りをしていました。
私がいつもトラックを駐車していた所は、大きな松の木が有り、
夏でも涼しい風が通過して、直ぐ近くには小川も有りました。
行くと必ずランチはそこで食べていました。
直ぐ側の家にはお婆ちゃんがバニーと言う子犬と住んで居ました。
近所に娘が結婚して住んで居まして、時々見に来ていました。
バニーと言う子犬も娘からの贈り物でした。
可愛いい子犬で、毎日散歩に近所をお婆ちゃんと歩いていました
が、私がランチを食べていて、その時、丁度弁当に卵焼きが有り、
それを食べる途中で、ポロリと一切れ落として、捨て様と思い
弁当の蓋に置いていました。
丁度、バニーが歩いていて、私のランチの匂いに誘われてクン
クンと私のトラックの下に来て見上げていました。
私はこれ幸いに卵焼きの一切れを小さく切って、先ず試しに食べ
させました。バニーは尻尾を猛烈に振って、『もっと頂戴~!』
と騒いでいました。その強烈なジェスチャーで、私はそれそれと
次ぎを、三ッぐらいに分けて与えました。
お婆ちゃんが後ろからバニーに追い付いて来て、直ぐ側の家に
入ろうと誘いますが、拒否ですーー!
見ていると、バニーは『もっと呉れ~!』と騒いでいました。
丁度お腹も空いていたと感じます。バニーは首輪にヒモを付けら
れ、しぶしぶ家にひきずられて帰って行きました。
しかし翌日です、同じ時間帯に散歩に出ますので、私のランチ
時間と丁度同じ時間となり、バニーが家を出ると私のトラック
に飛んで来ます。お婆ちゃんはびっくりして見ていました。
『ワンワン』と吼えて、『卵焼きを呉れ~!』と騒いでいます。
私が食べていまして、その匂いを覚えている様でした。
ランチのオカズには必ず卵焼きが入れて有りましたので、その時
は食べかけを『チョン~!』とあげましたら『もっと呉れ』と、
いくつかの芸を自分から見せてくれました。
クルクルと回転する、上手な芸には驚いてしまいました。
その日も芸を見せて貰ったご褒美に一切れの大きな卵焼きを
プレゼントしました。多分それが悪かった様でした。
それから毎日です、私のランチ時間を覚えてしまい、何時もその
時間帯、散歩が無いと、『ワンワン~!』と外に出るまで
吼えていました。
私もついつい、その吼え声を聞いて、直ぐ側の家で、塀の中に居
るバニーに卵焼きを配達していました。すっかり仲良くなり
必ず、色々な芸をして見せてくれました。
特にネギとシラス干しが入った卵焼きは、目を細くして犬でも
美味しそうに食べていました。
しかし有る日、私が朝早くトラックを駐車させると、娘が泣き
ながらバニーを抱いて家の前に居ます、何事かと聞きますと、
『昨夜、心筋梗塞で急死した』と話してくれました。
そしてその翌日、近くの教会でお葬式が有りました。
私はこれがバニーと最後の別れとなると感じて、ワイフに卵焼き
の特大を作ってもらい、サンドイッチの袋に入れて持参して、
娘に卵焼きの作り方を書いたメモを入れて置きました。
お婆ちゃんのお葬式ですが、バニーは娘の膝で私が渡した包み
の匂いを知り、目を輝かせていました。
その姿がバニーを見た最後でした。その年のクリスマスにカード
が娘から来て、バニーの可愛いリボンを首に巻いて写った写真
が同封されていました。今も私の机の引出しの中に、大切に仕舞
って有ります。
お婆ちゃんが急死してから、ランチ時間となるといつもバニーが
転がる様に走って来た事を思い出していました。
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