2011年12月23日金曜日

私の還暦過去帳(122)

私がパラグワイを出て、アルゼンチンのブエノスに来て知人の
紹介で、街中の日本人のナセリーの仕事をしていた頃です。
そこに時々、草花の苗を買いに来ていた、かなり年配の日本人
庭師が居ました。

彼は独身で、第二次大戦になり、帰国する事も、恋人を呼び寄せ
ることも出来なくて、ついついと時間が経ち、老いてしまったと
話していました。一人小さな部屋を借りてそこに住んで居た様で
一度訪ねた事があります。その時近所のレストランで食事をしな

がら話して呉れたそれまでの人生行路を聞いて、戦争が人の人生
を全て変える事を感じました。
好きな女性がブエノスで出来たが、彼女が水商売で、どうしても
過去の事にこだわり、貴方の様な真面目な人とは結婚出来ないと
断られたと話していました。

彼は若い時は写真家を目指して頑張った時も有り、少し写真を
飾っていました。それからしばらくして、急にナセリーに来なく
なったと思ったら、心筋梗塞で急死していました。
県人会の友人が、全てを頼まれていて、僅かに残して有った

荷物を整理して処分していました。私は彼が住んで居た家を
訪ねたら、ガランとした空き部屋が有るだけで、僅かなゴミが
部屋の前に置いてあり、その中に『このまま開けずに捨てる』
と日本語で書かれた紙袋を見つけました。

私は友人が約束を守っ、開けもせずに捨てたと感じました。
私は興味が有り、それを拾うと家に持ち返り、夕食後に寝台
の上に開けて広げました。わずかな写真が出て来て、セピア
色に変色した古い写真でした、おそらく彼が若い時に写した

写真と直感で感じ、めくっていくとその中に全裸の若い日本人
女性の愛らしい姿が、はにかんで、恥ずかしそうにポーズを
作り、写っていました。
可憐な姿で浴衣がずれて、可愛い乳房が見え、細い足が浴衣から
のぞき、丁寧に和紙で包んだ様子から、特別に大事に仕舞って

居た感じがしました。おそらく彼の若い時の恋人と直感しました。
僅か三枚の、全てを写した写真です。彼が片時も離さず死ぬまで
所持していた物と感じると、おそらく彼にとって大切な、大切な
物であったと感じました。何か有ったらそのまま捨てる様に

いつも袋に厳重に入れて、友人にも触れない様に注意書きして有
り、そして、彼の希望どうりに捨てて有ったと感じました。
私は見終わると、直ぐに袋に写真を戻し、封をしてしまい二度と
触る事は有りませんでした。
週末に友人との、バベキューの焚き火の中で灰となってしまいま
した。今では遠い昔の夢での出来事と感じます。

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