2011年9月18日日曜日

私の還暦過去帳(54)

私はいっも疑問を感じる事が有ります。
それはグルメとか言う食通の話です。舌が肥えているとか、食通に
通じているとか、これ人様々です。

今日は昔会ったインジオの歳寄りの話ですーー。
農場での仕事が少し暇になり、酷使したトラックを修理に出した時でした。
クラッチの分解修理で、町の修理屋に預けていました。
農場から歩いて町まで行く事になりました。13キロは有りまして、半日
は掛ります。
それと言うのもゆっくりと途中見物しながら行きますからーー、たいした
場所は有りません。しかし、昔のトラックも通らなかった時代の道を歩い
て行きます。
私は初めてその時、歩いて行きました。 農場で仕事をしている息子を訪ね
て来ていた、歳寄りのインジオが案内してくれると言うので、彼と町まで
歩く気になったのです。

町の近くの河の直ぐ側に住んで居ます。彼は無口で、黙々と歩きます。
時々立ち止まって木の名前や、草花の名前を教えてくれました。

手には狩猟に使う、弓と矢を持っています。しかし、弓の弦は外して有り
ますので、杖をついて歩いている様です。矢は二本しか持っていません。

矢じりは鉄木を15cmぐらい鋭く尖らせた物です。木と言っても、
「斧が折れる木」と言う鉄木です。一度見た事が有りますが、野豚の胴を
「ブスリー!」と右から左に突き通っていたのを見た事が有りますが、
水には浮かびません、直ぐに沈んでしまいます。

それと水の中でも百年は腐らないと聞きました。 河の近くを歩いていく
うちに、足跡を見っけて教えてくれましたが、これは若い鹿の足跡、これ
は野豚と、それから蟻食いの大きな足跡、彼は何でも知っていました。

肩には皮の小さなカバンを斜めのベルトで掛けて、持っています。
時々、コカの葉を出して噛んでいます。アルゼンチンの北部地方やボリ
ビアではコカの葉は合法で買えます。

タバコと同じでお店で売っていますが、税金がばっちりと付いてかなりの
値段です。 河の流れに出て、水を飲む事になりましたが、彼は水の上に
口を付けて日が当っている所の、水をすする様に飲みますーー。

決して「がぶ~!」と手ですくっては飲みません。全てが生活の知恵です。

河の流れが緩くなった場所で、ジーッと浅瀬を見ていましたが、手早く
弓に弦を張ると、矢をつがえて微かな水の波紋を見ていましたが、
「ツウンー」と軽い音がして、すると魚の頭に矢が刺さって、白い腹を
出して浮かび上がって来ました。

手早くナイフでさばいてしまいましたが、手つきの早い事、驚きでした
が、すると、カバンから少しの岩塩をビンから出すと、石の上で細かく
潰して、近くの岸辺から少し、水セリを取って来て石ですりつぶして、
魚の身に塗ります。

手近な枯れ木を集めて、火を起してそれを焼き始めました。
お昼のランチだそうです。かなり大きな鯉の様な感じの魚でした。

私にご馳走してくれると言う事で、楽しみに焼けるのを見ていました。
彼は「ガジェツタ」と言われる、日保ちするパンをカバンから出すと

焚き火で暖めて、柔らかくして半分に切り、先ほど細かく擦リ潰した
塩をほんの少しと、自家製のオリーブオイルを混ぜて、そこにガーリ
ックのひとかけらを潰すと、岩のくぼみで混ぜ合わせてパンに漬けて
食べる様に勧めてくれました。

皿も何も有りません。パンをちぎりながら、オリーブ油に漬けて食べ
ます。魚も焼きあがり、木の葉の上に乗せて出してくれました。

ほのかな水セリの香りで、こんがりと焼けた魚が美味しい事ーー。
手でちぎって食べます。魚を一口、パンをオリーブ油に漬けて一口、
素手で指先で食べますが、少しも違和感は有りません。

水セリをオリーブ油に浸して口に噛み締める新鮮さーー。
自然の供宴です。彼は食べる前に自然の神に感謝して、神々に感謝の
言葉を掛けていました。

自然を相手に逆らわない生き方、自然を生活と人生に取り入れてリズ
ムとして生きている人生ーーー。

機械文明、貨幣社会、現代の競争社会からの生き方が、一口食べるご
とに、疑問として湧いて来ました。

この食べ物はーー、自然を利用して命を養う事かとーー、酒も無し、
飲み物は河の水のみーー、食べ終わって、河の水で手を洗い、水面に
口をつけて水を啜り飲み、満足感に浸っていました。
これは人生の満足感の感じでも有りました。

豪華なレストランで食べる食事より、心満足の食べ物でした。

いっも思い出します、グルメとは何ぞやーーー!!口先だけで話す、
グルメとは何ぞやーー!!

「神々に感謝を込めて祈りながら、自然の食べ物を神から恵んで貰う」
と言ったインジオが忘れられません。

都会に住む、現代社会人の幸せとはーー。今でも時々考える事が有り
ます。

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