2011年9月16日金曜日

私の還暦過去帳(52)

貴方は銃を持って人を撃ち、傷つけ、生き物を殺した事がありますか?

生きると言う事は、時には命をかけて、戦って生き残る事を勝ち取らね
ばなりません。

今日のこの話は、生残る為に用意した武器を持って生への執着を持って
戦い、人を撃ち、傷つけ、そして誰かが愛していたものを殺した、慙愧
の念を心の中より引きずり出して書いたものです。

夕方の涼しい風が、アルゼンチンのブエノスアイレスから1700キロ
も上がったボリビア国境地帯のジャングルの木々の中を通り始め、ブル
ドーザーで押しただけの山路をトラックで走りだした。

南回帰線より100キロも内側に入ったボリビア国境に近い町、車で走
れば2、3分で通り過ぎてしまう、エンバルカションの町より12キロ
は山に入った農場の戻るためである。
町での雑用と明日の月末の給料をインデイオの労働者に支払うための現
金を銀行へ、ボスの代りに取りに行って、帰途についたのは太陽もだい
ぶ西に下りてからだった。

町で一ヶ所だけの日本人の洗濯屋をしている大城さんの奥さんより貰っ
たチキンのローストを、ハンドルを握りながら食べていた。
現金を持っているので、夜道を走るのは物騒なので、大城さんに夕食を
食べる様にと、さかんに言われたが、次にすると断って町を出てから
30分ぐらいダラダラと続く小道のカーブを曲がって、やっと川の流れ
が見える農場まであと4キロぐらいの所であった。

カーブを曲がると、突然、鋭い銃声が一発、それと同時に手に持って口
に入れかけたチキンの足が吹き飛んだ。唇がジーンとしびれた様になり、
フロントガラスに肉片とソースがべチャリと飛び散った。

片手運転のトラックは左側の川岸の方向へ少々傾きながら走って止まり、
ペッタリとシートにへばり付いて、気が静まるのを待った。

弾は右から左へ、開け放した窓をカスリもせずに通り抜けたらしかった。
チキンを食べる前まで、昨日の夜遅くまでトマトの荷作リパッキングの
作業で少々疲れたのか、眠くなりかけた目を開けさせるためにコカの葉
をかんでいたので、なにか頭の中はピーンといやに落ちついている気が
した。
遠くでかすかな音がしたーー。ゆっくりと右のサイドミラーをシートの
上から寝たままで見ると、チラリと人影が見え、二人ぐらいか、そして
左のミラーにも、もう一人、ピストルを手にしているのがチラリと見え
た。
ゆっくりと用心深く、近ずいて来る足音が聞こえる。もう一度右を見る
と男と若い女で、男の手にカービンらしい小型のライフルが見えた。
今、逃げたら必ず撃たれると考えて、こうなったらいちかバチか、銀行
に行く時には必ず自分もピストルを持って行くので、逆に、食らいつい
てやろうと決心した。

金を入れているカバンより、小型のブラジル製のレボルバーをホルスタ
ーより取り出して、ハンマーを上げて身構えた。

足音は二つ、右からだ、そして足音が止まり、かすかにドアにさわる音
がした。「弾が当たったらしい、ガラスに肉片が飛んでいる、死んだか
な、」と言う声と同時に、カチッとドアのラッチを開ける音がした。

私は思い切リ足でドアを勢い良く蹴った。ガ-ンと金属のぶつかリ合う
音、同時に私のピストルの発射音、ドサーッと人間が倒れる音、私は
シートから飛び起きて、倒れた男の影に向けてもう一発撃った。
男の黒い影がギャ-ッと声を出した。

当たったかと思う間もなく、左側で走り去る足音、左の窓から手だけ出
してメクラ撃ちで二発、ダブル.アクションで撃った。

一発がトラックの荷台の横板でもかすったのか、バチャーンとすごい音
を出した。
シートにへばりつきながらサイドミラーを見ると、男が転がる様に走っ
て逃げる様子がチラリと見え、開い右側のドアから二の人影が助け合う
ようにして、逃げる姿を見た。

今だと思い、いっもトラックのシートの下に入れて有るマチェーテと、
単発の散弾銃、二十発入りのベルトをつかむと、トラックの下にもぐり
込んだ。

エンジンとマフラーの熱気が伝わって来る、まず散弾を一発、中折れの
単発銃に装填して、右側の男が倒れた方向に向けて銃口を向けたが、
そこにはだらりと片手を落とした男をかばいながら、女がその男を引き
ずる様に近くのヤブの中に入る所であった。

よく見ると、トラックの直ぐ近くに軍用のMIカービンが一丁、かなり
近い所に、小型のザック型のカバンが一つ転がっている。

私は威嚇のために二人が消えたヤブの中へ散弾を一発撃った。
狭いトラックの下で撃った音は「ド~ン」と、物凄く、また土ぼこりで
前が見えなくなる様にまきあがった。

遠くの林の中までエコーが響き、シーンとそのあと静かになるまでの短
い時間、どこかで犬の吼える声を聞いたような気がした。
しばらくトラックの下で様子を見ていたが、今の威嚇が効いたのか、静
まりかえっている、トラックの下より手を出して、荷台の横板を下ろし
た。
ガターンと大きな音がして横板が落ち、これでバリケードが出来た。
砂地の地面に銃を構えて、ピストルの空薬莢を出し弾をつめ替え、その
後、目線をヤブの方に向けると、小型の犬がゆっくりと、用心深くトラ
ックの方を見ながら、転がったカバンの方に近ずいて来る。

かすかに女の声が犬に何か命令しているようだ、犬はカバンを目指して
駆け寄ると、カバンのベルトをくわえてヤブの方向に引きずり出した。

私は慌てて中折れを開け、次の弾を入れた。今度は鹿弾を入れた。犬を
地面に伏せたまま、ゆっくりと狙った。

次回はこの話の結末を書いて終りにします.

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