2011年8月4日木曜日

私の還暦過去帳(25)

今日のお話は、私がアルゼンチンのブエノス.アイレスの町に居た
時です、ボッカと言われる港町の近くに、二ヶ月ほど住んだ事が
有ります、そこはイタリア系の人が沢山住んで居ました。
そして、有名なアルゼンチン.タンゴの発祥の地としても有名です。

カラフルな色の家が有りまして、沢山の芸術家と言う人も、ここに
住んで居ました。
古い石畳の道が有りまして、昔のヨーロッパの感じがするところで、
週末になると沢山の人がレストランやカンテーナと呼ばれる所に
遊びに来ていました。

私もそこに住んで居る時は、良く出歩いて町の中を歩いてタンゴ
の生演奏を聞き、美味しいイタリアン料理を食べに行きました。
有る時、早めに仕事が終り、町のバールで寛いでいました。
アルゼンチンの夕食は遅く始まります、夜の8時過ぎですーー。

その日は平日でしたので、そんなには混んでいなくて、歩道に
出たテーブルでコーヒーを飲んでぼんやり町の通りを眺めていたら、
一台の高級車が止まり、中からかなりの年配の老婦人が息子と
思われる中年の男性に抱えられて降りて来ました。

どうやら三人の息子達の様です、二人が両脇を抱えて、その後ろに、
一人が車のトランクから出した車イスを押して付いて来ます、
老婦人は杖を付き、ゆつくりと歩いて、街中のお店を覗いていました。
時々立ち止まっては、息子達に説明している様子です、
パン屋の前に立ち止まると、息子が母親の指差すパンをお店に入って
買って来ました。

母親はそれを受け取ると、手で細かく分けて、一人ずつの手に
のせてやっています。三人の息子達はまるで小さな子供の様にそれを
口元に運びながら、母親の説明を囲む様にして聞いていました。
そこに歩いて通りかかった小柄な老人が挨拶すると、母親の紹介
で一人ずつ大きな身体を折り曲げて握手して、挨拶しています。

それから通りを少し歩いて、小さなイタリアン.レストランの前に
来ると、母親は店の看板の説明をして、息子達を従えて中に入って
行きました。
窓際のテラスのテーブルに座り、息子達は母親を囲む様にして、
メニユーを見ています、指差しながら母親は説明している様です。
その時かなりの年配の婦人がエプロンを掛けたまま、ワインの
瓶を持って出て来ました。

それを母親に見せて、ボーイに言いつけてグラスを並べると、
エプロンを取り、自分で注ぎ始めました。
各自グラスを取ると、まず母親と乾杯して、それから皆で乾杯して
席に着き、それを合図に次々と料理が出て来ました。

見ていると母親は料理を子供に取り分けて息子達に説明しています。
うなずきながら息子達は食べていますが、まるで子供がおとなしく
家族のテーブルで食事している様です、通りかかったギター弾きを
呼びとめて、イタリア民謡もテーブルに流れて、賑やかな時間が
過ぎていきました。

見ている私も何かほほえましく、心和むものでした。
街灯に光りもともり、食事も済んで母親は両脇を息子に抱えられて
ゆっくりと歩道を歩いて車に戻ります、後ろには車イスを押した
息子が歩いていますが、ふと立ち止まると母親は、少し離れた歩道
を歩く老人をジット見つめていました。側の長男らしい中年の息子に

何か話しています、するとそれを見た息子はうなずいて見ていました。
母親は、両手にカバンを重そうにも持っている動作をすると
息子達に何か話しをしています、それはーー、
 
「お父さんは船から降りた時は、ああやって大きなカバンを両手で
 下げて歩いて来たのだよ~!」
 「私はお前の手を引いて、赤子のお前を抱いてーー」
 何かその様な動作をしていました。

長男は母親の側で肩を抱いて、じっと先ほどの老人を目で追って
いましたが、こぶしで涙を拭いているみたいでした。
後ろに立っている息子達もジット涙をこらえて、うつむいています、
母親がハンカチを出して涙を拭くと、息子達の涙もこらえる事が
出来ないとみえて、母親の肩を抱いて泣いていますーー、

母親は優しく子供達の肩を両手で抱いて抱擁して、
 「泣くのではないよ~!」と優しく、さとしているみたいで、
車に乗り込んで、動き始めた自動車の窓が開き、薄暗い街灯
の光に白いハンカチが微かに揺れていました。
 それは、「さようならーー、さようならーー」と言っている
 みたいで、いっまでも続いていました。
  
   ボッカの町でギター弾きが唄っていた歌です、
   
   ここに来ればお袋の味が有るーー、
   ここに来れば故郷のお国言葉があるーー、

   ここは故郷の匂いが漂うーー、
   ここは昔の思い出の故郷ーー、
   
   いっもここでは故郷の地酒が飲めるーー、
   酔って心豊かに故郷の民謡を唄えばーー、
   はるかかなたの故郷に訪れたみたいだーー、

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