私の還暦過去帳(17)
ジジイで月末で事務処理が忙しくて中々暇が取れません。自営ですの
で全部自分でやっています。三ヵ年前に会社も引退の為に閉めまして、
自分で出来る仕事だけを残して、気楽にやっています。
不動産管理の仕事です。気楽ですが少し技術が無くてはなりません。
あらゆる事に対して、直ぐにやる事が出来ないと、えらい事になりま
す。今日のお話はレントハウスでの、だいぶ昔のお話ですーー。
ある時、中国人のオーナーから電話が有りまして、新しいテナントが
入居したと連絡が有りました。
それそれーーと出かけて行き、見に行きましたが、えらいこっちゃで
す、どでかい犬が居ます。そのレントハウスでは初めてです。だから
塀の点検を頼んで来たのです。
近寄ると、「ぐわ~!」です、気の強いジジイもおたおたーーです。
ハンマーと釘をトラックから持って来て、トントンと修理始めました
が犬は、その板塀の隅を「ガリーーガリーー、」です。歯も磨いてい
ませんので臭い息がして来ます。
よだれもだらだらーーで、板をはさんで10センチも離れていません。
邪魔なバラの枝を切って除け様とすると、それをガブリです。馬鹿な
犬です。口が血だらけになり、凄い形相になりました。
犬もトサカに来て「食い殺してやる~!」の形相ですがーー、
ままーー、専門家ですので慌てもしません。
トラックに戻り、催涙スプレーを取って来ました。
動物用の胡椒のエキスがたっぷりと入っています。15分から20分
はヒックリ返ってしまうほどの凄さです。
塀の内側も釘を打たなくてはなりません。
ま~そう言う事でーー、少しちょっかいを出して、からかって、犬が
ドダマに来て、「ぐぁ~!」と大口を開けて塀の側に来た所を
「ぶちゅ~!」とスプレーしました。
なれたもので跳ね返りを避けて目をつぶり、横を向いていましたので
少し時間がたってから犬を見ると、なんとーー、前足で両目を覆って、
ひっくり返っています。口は開けたままです。
よだれがーーだらり、少し口から泡も吹いています。
塀の中に入りまして、まず用心して犬の尻尾を蹴ります。すると股間
の間にジジイがうらやむほどの大きな物がぶらりでしたが、それをく
るりと尻尾で丸めて隠してしまいました。
どうやら降参のシンボルです。それそれーーと仕事をしてしまいまし
たがまだ起きません、だいぶショックだった様です。
テナントも留守の様でメモを書いて来週も見回りに来ると残してきま
した。
次の週です。私のトラックが止まると、犬がパット駆けて来ましたが、
私と顔が会うと、「いけね~!あのジジイだーー」と直ぐに隠れてし
まいました。
中々近寄って来ません。そのつもりで犬用のビスケットを持って来ま
したので、「ぽ~い!」と投げてやりました。
これも前のレントハウスからの残り物です。そこでは沢山貰って食べ
ずに残していますので、せいぜいカラスが食べに来るくらいです。私
がかたずけて、少し貰って来ました。
犬は用心深く近寄って食べ始めます。先週の様に馬鹿に吼えもしませ
んので楽です。それからは毎週もらい物ですが、ビスケットや干し肉
を少しずつやりまして、仲良くなりました。
塀の中に入っても後を付いて来ます。日中は誰も居ませんので犬も寂
しいのだと思います。ボールを投げて遊んでやりますと嬉しそうに何
度もくわえて来ます。暑い日は冷たい水もバケツに沢山入れていっで
も飲める様にしておきました。
暑い日に私も木陰で休んでいますと、側で座って見ています。犬小屋
の壁に下げて有るブラシで毛をブラシーングしてやると気持ち良く寝
ています。仕事が終って帰るときは出口の門まで見送りしてくれます
ので何か友達になったみたいです。
でもある日、携帯電話にオーナーから電話が有りまして、テナントが
引っ越したと言って来ましたので、直ぐに見に行きましたがそこには、
引越し残りのダンボールとゴミが残されているだけでした。
犬が居た小屋も有りません。そこには半分だけ土に埋まったボールが
一つ有るだけでした。
がら~とした庭には紙くずが風で飛ばされて、侘びしいものです。
あの大きな犬もどこか引越ししてしまったのだと思うと、ふとーー、
私も毎週会っていたので何か心寂しい感じでした。
犬とも一期一会の出会いですが、物言わぬ動物達との別れも何か心
に残る事が有ります。
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