2014年4月26日土曜日

私の還暦過去帳(512)

第4話、南米移民過去帳物語、(17)

南米の「フーテンの寅」さん(5)

私の友人達も随分と亡くなり、音信不明の友も沢山います。
時代は変化して、過去に消えて行き、昔の事が全て消え去って行きます。
誰も興味も無い出来事など、語る事もなく、年月の狭間に直ぐに隠れて
顧みることも無い出来事として、忘却の彼方に人知れずに消えていく事
は世の常です。

私の南米時代の友人であった伸ちゃんも同じ様に、ふれ合いの楽しい
時期を過ごして、別れ、記憶の襞に隠れて、私の記憶から忘れされよう
としています。後僅かな時間に文字で書き残さないと、全てが私の記憶
からも消え、そして永遠の無の世界になってしまうと考えています。

アルゼンチン・サルタ州の遠い昔の若い頃の思い出に、ふと思いを巡ら
すと、伸ちゃんの顔が浮かび、ベルメッホ河で魚釣りした楽しい思い出や、
パン焼き釜で、見よう見まねでパンを焼いたことなどが浮かんで来ます。

彼がブエノスから二度目の手術が成功して、サルタ州に帰って来たのは、
かなり日時が経ってからでした。少し痩せて、顔の日焼けも無くなり、でも
いつもの、ヒヨィー!とした感じで、笑顔で汽車から降りて来ました。

彼からの電報が私書箱に入っていたので、皆と迎えに出ていました。
荷物も一個増えて、両手にカバンを下げてホームに降り立つと、彼はこ
こは暑いなー!という最初の言葉でした。
彼がブエノスに出る前に居た小屋がそのままで残されていたので、彼は
またそこに住んでいました。

ブエノスの洗濯機械修理会社で少し働いていたので、蓄えは少し持って
いた様で、彼は体調管理をしながら、食べるくらいの野菜類を作り、良く魚
釣りをしていました。時間が在るときは溶接の腕を生かして、リヤカーなど
を作り、それを売って稼いでいました。この日本式リヤカーは便利で重宝
して使っていました。
収穫時期に狭い畑の道から、トラックターなどが通る道までトマトを運び出
す事などに使いましたが、便利な物でした。

伸ちゃんが良く魚釣りで近所に来て、私の農場に泊まっていましたが、あ
る日、野菜の仲買のイタリア人の息子が、ブエノスから来てブラブラして、
町で遊んでいて、そのチンピラも魚釣りに来る様になり、伸ちゃんが釣る
場所を占拠して、時には網でごっそりと魚を獲っていましたので、インジオ
達もチンピラの若者に反感を持っていました。

ある日、伸ちゃんが中心となり、仲間で相談してインジオの若者と話して、
イタリア人のチンピラが魚釣りしている川原の曲がり角に居るのを確認し
て、小口径ライフルで威嚇射撃をすることにしました。
広い川原の中で、土手までは100mも離れて、川原の曲がりは河も流れ
が急で、泳いで渡る事など不可能な場所で、伸ちゃんの良い釣り場でした
が、そこがチンピラに取られてしまったので、話し合いなど無用ですから、

脅かしに一つ威嚇射撃をすることにして用意していたら、ノコノコとチンピ
ラが朝早く来ましたので、インジオの若者にライフルと弾を持たせて日が
出てから、対岸の茂みから狙って威嚇射撃をしましたが、最初の一発で、
岩にへばりついて、隠れていたようで、一度土手まで逃げ様としたのです
が、逃げる前の石を撃たれて、また岩陰に隠れて魚釣りの道具など放り
出して、カンカン照りつける太陽に照らされて、隠れて居た様でした。

後からですが夕方、町の病院に日焼けで爛れた腕や背中を治療に来て
いたという話を伸ちゃんから聞きましたが、それっきりチンピラは魚釣りに
は来る事はありませんでした。
その後、町から警察が来て調査していたが、皆が知らない事だと言って
相手にせず、警察もわざわざ11km近い距離を運転してくる事など、面
倒の様で、1度だけで、その話しは終わりでした。

イタリア人野菜の仲買も、息子が皆に反感を持たれ、悪い事をしていたの
で、それとインジオの若い女に手を出して、町で男に追われて殺されそう
になり、ブエノスに父親が連れて逃げ帰りました。

伸ちゃんも町では皆に知られ、針金で作った玩具などを子供達に与えて
いたので子供達にも人気がありました。
イタリア人のチンピラが居なくなって、伸ちゃん達とも魚釣り、飲み会、狩
猟なども邪魔されずに皆で仲良く、楽しい時間を作っていました。
はやり同じ言葉を話して、日本食を作り、皆で食べて楽しい時間を共有し
ていた事は、今でも楽しい思い出として残っています。

私もエンバルカションの町に住んでいた時代、伸ちゃんとの思い出が一
番楽しい思い出として残っています。私が農場の仕事を辞めて、ブエノス
に戻る時に彼がいつも旅で持ち歩いていたジュラルミンのトランクを餞別
に持たせてくれました。今でも私の思い出として、アメリカまで持って来て
記念に保存してあります。

先日、納屋からトランクを持ち出して来て、被せていたプラスチックを外し
て、久しぶりに眺めていました。心に何か甘酸っぱい様な感傷が湧いて、
若かりし時代の思い出が一杯詰まったトランクだとしみじみと見ていました。

次回はまた違った話題を書いてみます。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム