2012年1月5日木曜日

私の還暦過去帳(132)

47年前の南米の田舎です、TVは有りましたが、2チャンネル
で、昼間はお休みと言う白黒TVの時代でした。

ラジオも短波放送が有りましたが、受信するラジオが貧弱で、
あまり綺麗には聞く事は出来ませんでした。

娯楽と言うのは、酒を飲むか、釣か、狩猟で、それと若い女性と
ワイワイと騒ぐ事でした。勿論その後は、たまには酒も入り、
ドンちゃん騒ぎをして、ダンスをして酔いつぶれていました。

有る日、私の友人が狩猟に誘ってくれました。 ビスカッチャと言う、
ウサギと狸との合いの子のような動物で、 肉はかなりチキンに似て、
美味しい味でした。
私の友人は毎日罠を掛けて、週に2~3匹も掴まえていました。
それで肉は充分でしたので、かなり節約になっていたと思います。

夜行性で集団で生活している動物です、大きさはウサギの大きな
物と同じです、それをハントする事になり初めてで、ただインジ
オの後ろを付いて行きました。

狩猟と言っても、拳銃で撃つかなり上級な狩猟です、夜間狩猟で
だいぶ危険な事も有り、注意が必要でした。

用意は拳銃と弾、懐中電燈の大きな光源の有るもの、夜の潅木の
草原を歩きますので、夜行性の毒蛇の用心に皮の長靴を履いてい
ました。
刺の有る潅木の中を夜間に歩きますので、皮のジャンバーを着て
皮の手袋をしていましたので、大陸性の夜間冷え込む草原を歩く
のには充分でした。
歩きながら懐中電燈で草原を照らして、 ビスカッチャを探します、
うじゃうじゃ居ますので、焦点を 懐中電燈で合わせて、2~3度
点滅させると驚いて、ピヨンー! と停止して、こちらを見ますの
で、その時に撃つのです。

当ればそれで『一丁上がりーー!』と言う事で、当らない時は
漫画映画で、ぴょん~!と消える感じで、瞬間に消えて行きます。

余り威力の無い22口径の拳銃を使います、弾代が格安だからと、
急所を狙って撃ち、即死させますので22口径で充分でした。
下手な人が狙うと、5回撃って一度当れば良い方でした。

私が連れて行かれた所は、人家も無く、わびしい潅木の生い茂る
草原でした。微かに半月の輝やきに照らされた、壊れかかった
小屋が有り、そこが狩猟の基地でした。

インジオのガイドが3名いまして、全てを案内して世話をして
くれましたので、私達三名は、ただ撃つだけでした。
車が入れる所の終点はインジオの家があり、案内する時に使
う乗馬が囲いに5~6頭居ました。

私達三名はその馬で何処を歩いたかも知らないで、狩猟場に着き
暗くなった草原の中で、一息付いて焚き火を起こして、お茶を
沸して飲んでいまして、コーヒーを飲む者、マテ茶を飲む者に
分れて、持ってきたサンドイッチを食べて、その夜の準備をして
いました。
インジオから射撃の注意を受けて、夜間射撃の危険性を教えて
貰い、一人にインジオのガイドが一人同行します。
ズボンのベルトにホルスターを提げて、皮ジャンのポケットには
22口径のマグナムの弾を100発バラで入れていました。

小さな肩掛けカバンの中には予備の弾を100発と懐中電燈の
電池の予備を四本、後は水筒でした。緊急医薬品などはガイド
のインジオが持っていまして、私達はなるべく身軽にして歩いて
狩猟をする様にインジオが考えていました。

始める前にインジオが天地の神々に祈り、夜空に向かって祈りの
言葉を捧げていました。それが済むと各自がインジオのガイドと
分れて歩き始めて、危険がない様に別方向に分かれて歩き始めて,
わずか100mも行かない内に、インジオが懐中電燈で照らして
ビスカッチャを竦ませて、撃つ様に教えてくれました。

私は昔のネズミ撃ちの要領で、後ろ足で立ち上がった獲物を1発
で倒しました。距離が20mぐらいで獲物が大きかったので外す
事は有りませんでした。

それからは、無我の境地の様に点滅する懐中電燈の光に、空薬莢
を取り出して、弾を詰め替えながら撃ち、銃口の閃光が弾けて
どれだけ獲物を仕留めたかも、数える事もなく、ただひたすらに
夜の潅木の中を歩きながら撃ちまくった。

ふと喉の乾きを覚えて小休止を取ると、遠くで銃声が聞え、心ま
でが渇き切った感じがしてきた。水筒の水を飲み干すと、自分の
右手の手袋がドロドロに硝煙で汚れて、蒸れていた。

見上げた夜空が微かに色濃い濃紺の流れから、漏れる様に夜明け
の輝きが感じられ、朝が近い事を知った。
どーッと疲れが出て来て、後ろを歩いていたインジオに、戻るか
どうか聞いた。

彼は短く『戻りましょうーー!あと僅かです、 直ぐに夜が開け
ます』と話すと、私を案内して明け方の道を戻り始めた。
微かに夜明けの輝きの中で、ここに三匹、しばらく歩いて二匹 と、
獲物が集められていた。頭から血を流して死んでいる獲物。
首を撃ち抜かれて死んでいる獲物。口から血を流して死んで
いる獲物。

歩きながらそれらを見て、思わず心に何かグーッと 来る物が有った。
小屋の近くでは、インジオが獲物を処理していた。
小さな穴が掘られ、中には血で汚れた臓物が投げ込まれ、肉が
棚に吊るされて、下で焚き火が燃やされ、いぶされていた。

どす黒く血で濡れた両手を動かして、無心に処理するインジオ
が内臓を掻き出すと、穴の中に投げ捨てた。『ぐちゃり~!』と
音を立てて血が飛び散り、胃の中で『ムカーー!』と込上げる
物が有った。
私は小屋からウイスキーの小瓶を取り出すと、瓶ごとラッパ飲み
して、フラフラと小屋の横の藪に歩いていき、 お思い切り胃の中
から吐き出した。
皮ジャンのポケットに残っている弾を右手で掴むと、思い切り
朝焼けの草原に向けて投げ捨てた。

拳銃のシリンダー弾倉から残りの弾も抜き取ると、それも投げ
捨て、ホルスターに差し込むと、スーッと燃える様に草原に
輝きながら朝日が昇るのに向かって歩き出した。

何か空しい心が湧いてきて、涙が出て来た。 涙が冷えて、寒い
ような冷気に冷やされて流れていた。

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